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松山地方裁判所宇和島支部 昭和41年(わ)97号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

【判決理由】<証拠>を綜合すると次の事実を肯定することができ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

一 被告人は自動車運転者として、昭和四一年四月三〇日午前六時三〇分頃、大型貨物自動車を運転し、愛媛県北宇和郡広見町大字近永を東から西に貫通する幅員五米(道路と同じ高さにコンクリート製蓋がしてある両側の側溝を含め六米)アスファルト完全舗装道路の略センターライン上(通称宇和島-窪川線と呼ばれる県道)を前方を注視しつつ時速約三五粁の速度で東進し、同所二一八番地先三差路にさしかかつた。

二 右三差路は、幅員三・八米余、非舗装の砂利敷で路面に凹凸の多い町道が、右県道に向つて、北東の方向から約四〇度の角度で交差している三差路であり、同三差路の西北角には、畠山隆一郎方の木造瓦葦二階建居宅が建つており、これに遮ぎられて右各道路から互の見とおしは悪く、右西北角の地点より西方約三四米の県道センターライン上において東方路上を見透すと、右町道はその存在を確認できず、僅かに空地が見える程度であり、西方二五米の地点に至り、初めて右町道を道路として認めることができる状態である。

なお右県道は午前七時より午後一〇時までの間自動二輪車以上の速度を時速三〇粁に規制してあり、午前六時三〇分頃では速度規制がなされていない。又右県道における車輛、歩行者の交通状況は、一般には、午前七時頃より登校、出勤者等の歩行者、自転車、単車の交通が頻繁となるが、それ以前は交通量は少く、被告人が午前六時三〇分頃右県道を走行していた時は、道路脇の人家も戸を締め、車輛、歩行者は見当らない状況であつた。

三 被告人は右三差路より約一五・六米西方県道センターライン上において、突然前記町道より、その略中央辺りを、一時停止若しくは徐行することなく、県道を北東の方向に進入してきた新倉良行(当時二八年)の運転する原動機付自転車を発見し、直ちに急停車の措置を講ずるとともに、同人との衝突を避けるため稍、右にハンドルを切つたが、被告人の前を被告人の方に斜に横切るような状態で走行してきた右新倉運転の原動機付自転車との衝突を避けることができず、右町道西側の線を、略右県道に延長した線(被告人側からいうと右交差点の前側の線)上、県道南側から一・四米(但し内一米は側溝の幅)の地点において、自車の右前照灯付近と右新倉の運転する原動機付自転車が衝突し、被告人の運転する車はそれより約一米進んで停止、右原動機付自転車は約二・六米跳ね返されて横倒しとなり、新倉は約四・五米跳ね飛ばされて転倒、よつて同年五月三日午後五時二五分同所近永所在富山医院において、脳底骨折、脳挫傷により死亡した。  第二、ところで右新倉が原動機付自転車を運転し、右町道より右三差路に進入してきた時の速度については、前掲各証拠により可成りの速度であつたことを認めるこがとできるが、前記実況見分調書によれば、右三差路の県道上に右衝突地点まで略、北東の方向に残された原動機付自転車の制動距離痕が五・九米、当時快晴で路面が乾燥していたことが明らかであるところ、制動痕の長さより制動開始直前の速度判定の方法として、実務上一般に使われる公式

に当てはめて右速度を算定すると、右摩擦系数は乾燥したアスファルト舗装道路では〇・五五とされており、(日沖憲郎博士還歴祝賀、過失犯(2)三四三頁、三四四頁参照)少なくとも時速二五粁以上であつたものと思料される。

第三、以上認定の事実をもとにして本件事故発生の原因を以下検討する。

一 道路交通法第三六条第二項は「車輛等は交通整理の行なわれていない交差点に入ろうとする場合において、その通行している道路の幅員よりも、これと交差する道路の幅員が明らかに広いものであるときは、徐行しなければならない。」旨、第三項では「この場合において幅員の広い道路から当該交差点に入ろうとする車輛等があるときは、車輛等は幅員の広い道路にある当該車輛の進行に妨げてはならない。」旨、第四項では「この場合には左方の道路から同時に当該交差点に入ろうとする車輛があつても、幅員の広い道路にある車輛等が優先して通行することができる。」旨規定し、同法第三七条では「車輛等は交差点で右折する場合において、当該交差点において直進し、又は直進しようとする車輛等があるときは、当該車輛の進行を妨げてはならない」旨規定し、同法第四二条では「車輛等は交通整理の行なわれていない交差点で左右の見とおしのきかない場所において徐行しなければならない」旨規定している。

二 ところで本件三差路が交通整理の行なわれていない、左右の見とおしのきかない交差点であること、前記県道の幅員は、前記町道の幅員より明らかに広いと認められることは前記認定のとおりであるから、道路交通法上、新倉は右町道より右県道に進入するに当つては、同法第三六条第二項、 第四二条の規定により、右三差路に入るまで徐行して左右の安全を確認の上同法第三六条第四項、 第三七条により被告人運転の自動車が優先して該三差路を直進通行した後、右三差路に入つて右折を開始すべきものであつたことは明らかであり、刑法上、自動車運転者が右の如き三差路に入るに当つて一般に、要請せられる徐行義務も道路交通法上自動車運転者に課せられた右徐行義務と同一内容のものであることは論を侯たないところである。

ところが、新倉は右徐行義務に違反し、右町道より、時速二五粁以上の速さで、しかも東北の方向から被告人の前を被告人の前を被告人の方に斜に横切るような状態で三差路に進入してきたため、その直後、被告人運転の自動車を発見し急制度の措置をとつたが及ばず、同自動車の右前照灯付近に激突したものであつて、同人の徐行すべきであつたのに徐行しなかつたという過失が本件事故発生の原因をなしていることは明らかである。

三 ところで検察官は、同人の右過失もさることながら、被告人の一時停止義務違反、徐行義務違反も本件事故発生の一原因となつている旨主張し、被告人は、優先して進行し得る道路を走行している場合、本件三差路の如き場所において、その都度徐行することは事実上殆ど不可能である旨弁解し、弁護人は、自動車運転者には、交通規制を無視、、無謀操縦して飛出してくる運転者のいることまで予想して、見とおしのきかない交差点のある都度、一時停止すべき義務はない旨主張するので、以下被告人にも本件事故発生の原因となつた過失があつたか否かについて検討してみる。

道路交通法第四二条は、自動車運転者に対し、見とおしのきかない交差点において一時停止の義務を課したものではない。又高速交通機関として自動車の使用が認められ、その社会的効用が是認されている今日、刑法上も同交差点付近において車馬、歩行者が輻輳している等特段の事由がない限り、自動車運転者に、一般的に該交差点の直前で一時停止すべき義務を課することは相当ではなく、その義務の程度は事故の発生を防止し得りる徐行の程度をもつて必要且つ充分と解すべきである。しかして被告人が右県道上を進行していた時は、前記認定の如く、早朝であつて道路両側の人家は戸を締め、車輛、歩行者らも殆ど見当らない状況下にあつたのであるから、被告人としては本件三差路に進入するに際しては右徐行義務を果しておれば自動車運転者として必要にして充分な義務を果していたものといわなければならない。なお敷衍するに、右徐行義務は、車輛等が優先して進行し得る道路を進行している場合においても必要であり、このことは右第四二条の解釈上明らかであるのみならず、同条は、見とおしのきかない交差点における出合頭の衝突事故を防止するため設けられたものであり、且つそれは車輛のみならず幼児を含む歩行者もその対象としていることからいつて明らかである。このことは、幼児が見とおしのきかない他方道路から該交差点に急に飛出してきた場合を想起すれば、右徐行義務が必要なことは明らかであつて、この点につき被告人の弁解するところは不当というの他はない。

四 そこで更に被告人が、右徐行義務を果していたか否かにつき吟味するのに、

右にいう「徐行」とは、道路交通法第二条第二〇号によれば、「車輛等が直ちに停止することができるような速度で進行することをいう」旨規定されており、それが事故発生防止のための規定である以上、右徐行の程度は、「当該道路の広狭、見とおしの難易、当該車輛の種類、交通量の多寡、等諸般の状況に応じ、停止の措置をとつた場合停止するまでの制動距離を進行してもなおかつ事故の発生を避け得られる程度の速度」ということができる。従つて、徐行義務が果されているか否かを一律にきめることは不可能であつて、その事案の内容に応じ、その徐行義務の程度は具体的にきめられなければならない。ただこの場合においても、見とおしのきかない交差点における車輛同志の衝突事故の発生は、相手車輛の種類、運転の態様(速度、方向等)と重大な関連を有することが稀ではないから、この点を無視し、単に事故発生の事実をもととし、遡つて加害車輛運転者のみの徐行義務の程度を考えることは、時として当該運転者に酷な徐行義務を課する結果となることに留意しなければならない。

ところで被告人は前記認定の如く、本件三差路より約一五・六米西側県上で新倉の車輛を発見、同時に急制動の措置をとり、略右三差路の西側の線(被告人に近い線)上で本件衝突事故が発生し、同線より僅か一米東側の地点(同三差路に一米入つた地点)で停止したのであるから、被告人運転の自動車は右三差路に入る直前においては殆ど停止に近い速度であつたことが認められる。検察官は、右県道は幅員五米、被告人運転の自動車は幅員二・四七米(司法警察員作成の実況見分調書によつて認められる)で、被告人は略右県道センターライン上を進行していたのであるから、右県道の略半分は被告人の車輛に蔽われ、その側面にはいくらも隙間がなく、従つて事故発生の可能性も大であり、被告人としてはもつと徐行すべきであつた旨主張し、現場の状況が右主張どおりであることは前記認定のとおりであるが、優先して進行し得る道路を走行中の被告人としては、見とおしのきかない三差路において徐行義務を課せられるとはいえ、これと交差する前記町道から進行してくる車両も該交差点に入る前に徐行するであろうことを期待するのは当然であつて、当該車輛が右徐行義務を果しておれば、被告人運転の自動車は、右交差点の略被告人に近い線上に停止したのであるから、本件事故の発生は未然に防止し得たであろうことはこれを首肯するに充分であり、右の限度をもつて被告人は徐行義務を果しているものというべきである。被告人に対し、前記新倉の如く、見とおしのきかない本件三差路を、二五粁以上の速度で、被告人の前方を被告人の方向に斜に飛出してくる自動車があることまで予想し、それとの衝突を避け得る地点で停止し得るよう徐行すべきであるというのは、まさに、相手車輛の種類運転の態様を無視し、単に事故発生の事実をもととし、遡つて被告人側のみの徐行義務の程度を主張するものであつて余りに被告人に酷な徐行義務を課するものといわなければならない。

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